SOSの猿/伊坂幸太郎
今回の本は孫悟空×300億円の損害を引き起こした株誤発注事件の調査をするIT品質管理で働く男×引きこもりの男の子を助けようとするエクソシストの模様が描かれている「SOSの猿」(伊坂幸太郎)。
SOSの猿、と題名にもあるように、全体のベースとなっているのは、、、
猿
だ。
まさに、リアリティとファンタジーを融合させた作品である。
「私の話」と「猿の話」で小説は構成されており、途中まではこの二つの話がどのように関係してくるかわからない。まさに、井坂氏お得意のパターンです。
話の始まりは、ひょんなことから引きこもりのカウンセリングを任されてしまう男、遠藤の話から始まる。
他人からのSOSを見過ごすことができず、たまたま身に着けていた悪魔退治の技術を使い、引きこもりを助けようとする。
場面は猿の話へと変わる。
話の始まりは、こうだ。
これから語るのは、因果関係の物語だ。我ら孫行者にしても、天界で暴れたがために五行山に封じ込められた、、、。。
猿の話に登場する、プログラムやシステムの品質管理を調査する男、五十嵐真は株誤発注で起きた300億円損失の事件のミスを追いかけ続ける。
この株誤発注事件はそもそも「1株 50万円で売る」を「50株を1円で売る」と入力ミスしたことが直接的な原因であった。
五十嵐はミスという言葉をこのように語る。
「ミスの原因には2種類あります。『うっかり』と『思い込み』です。」
「いいですか、もしその失敗の原因が担当者の『うっかり』にある場合、どうしてそのうっかりミスを誰も注意できなかったのかを調べる必要があります。」
『うっかりミスには寛大に、規律違反には厳格に』
と。
ここから、「なぜミスをしたのか」の根本となる原因を探りに行きます。
さて、ミスをした男、田中にいきつくわけですが、失敗という言葉から、「恥ずかしさ」そして「恐怖」という2つの言葉を説明してくれます。
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「人は失敗に恐怖するんです。失敗した、と思われることが怖いんです。」
「人間の感情における、恥ずかしさの意義は何でしょう?」
「たとえば、恐怖という感情があります。これは人にとっても、動物にとっても大切な感情でしょう。恐怖を感じるからこそ、注意深くなりますし、危険を回避しようともするわけです。生物が生きながらえるのはその恐怖心があるからこそ、ともいえます。」
〜中略〜
「失敗をしたとき、やってはいけないことをしたときに人は、恥ずかしいとかんじます。」
「二度と繰り返さないような失敗をした時にさえ、人は恥ずかしくなります。自分の失敗に対し、素直に謝罪するどころか、失敗を認めず、激怒し、他人に責任をなすりつけようとする人間も多いわけです。」
「つまり、恥ずかしさは、見放されるという恐れと結びついているのではないでしょうか。失敗をしたことを誰かに気付かれ、自分の能力を低く見積もられる。その結果自分が仲間から見放されるのではなきか、そう恐怖するのかもしれません。」
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相変わらず、こういうフワッとした概念的な部分を、キャラクターを用いて説明するのがうまいなあと浸ってしまいました。
どうして失敗をして恥ずかしいの?なんて、当たり前すぎて考えないのですが、そこへ切り込みを入れて、上手く話に盛り込む伊坂氏、さすがです。
さて、一見すると悪魔払いの話なんて無縁に見える展開ですが、、、この後どのように、悪魔払いの男、遠藤と出逢うのでしょうか。
キーワードは、SARUです。
伊坂ワールド全開の、エンターテイメントと現実世界の融合小説でした。
私はこの物語から、
人間にも、失敗にも、ありとあらゆる事象には善と悪の側面があり、それは、受け取る側によって善にもなりうれば、悪にもなりうるのだ。というテーマを感じたなー。
全部が正しい人間とか、全部が悪い人間とか、そんな人はいないんだなと。
バランスが大切なのだそう。伊坂氏の話は、たいていこのようなテーマで教えてくれる気がするけど。
いつもこのような大事なことを伝えてくれるキャラクターが輝かしくて、だから、辞められないんです。伊坂幸太郎氏の本を読むのは。
しかし、暫く伊坂氏の本は離れて他作家の方々の本を読んでおります。
さて、それからどうなるのか。
次回の回を待たれよ。(お猿風な〆)